Klopfenstein Taper

概要

Klopfenstein Taperは1956年にR.W. Klopfensteinによって設計理論[1]が示されたテーパー状のインピーダンス変換器(Tapered impedance transformer)です. このページでは伝送線路によるインピーダンス変換について説明したのち,Klopfensteinテーパーの設計法の概要と,設計のための計算ツールを示します.

インピーダンス変換器

下図のように特性インピーダンスの異なる(多くの場合では線路幅の異なる)線路を接続した場合,線路接続部のインピーダンス不連続点では信号の反射が生じます. 2つの線路をなにも考えずに繋いだ場合,接続部での反射係数(→反射係数とRL,VSWRの関係と変換)はそれぞれの線路の特性インピーダンスから \[\rho_0 = \frac{Z_2-Z_1}{Z_2+Z_1}\] となります.

回路を設計するうえで,上記のように幅の異なる線路(→マイクロストリップ線路の線路幅と特性インピーダンス)を接続する機会は多々あるかと思いますが, その際に信号の反射が起こると都合が良くありません. そこで線路と線路の間にインピーダンス変換器(Impedance transformer)を挟み,整合を取ることで問題を解決します. インピーダンス変換器にはいろいろな構成がありますが,最も単純なのは以下のように線路間に$\lambda/4$伝送線路を挟んだ$\lambda/4$変成器と呼ばれる構成です.

$\lambda/4$伝送線路はイミタンスインバータとして動作するため,例えば$Z_1$側から$Z_2$側を見た場合の入力インピーダンスは \[Z_\mathrm{in} = \frac{Z_\mathrm{t}^2}{Z_2}\] となります.従って$Z_\mathrm{t}=\sqrt{Z_1Z_2}$とすることで$Z_\mathrm{in}=Z_1$となり,インピーダンス整合が取れます. これは$Z_2$側から$Z_1$側を見た場合にも同様に成り立ちます.

このインピーダンス変換器は$\lambda/4$伝送線路を用いて構成しており,電気長が$\theta = 90^\circ$となる一点の周波数では完璧で究極のマッチングが取れますが,それ以外の周波数ではやはり反射が生じてしまいます. 今時の電子回路では高速通信のために広帯域の信号を扱うことが多いため,狭帯域でしか整合が取れないのは問題です.

この課題を解決するための策として,以下に示すように$\lambda/4$変成器を複数繋げた多段変成器が用いられます. 冒頭に示した反射係数の式からわかるように,線路の不連続による反射は2つの線路の特性インピーダンスの差が大きくなるほど大きくなります. 変成器を複数段用いることで各段の線路間の特性インピーダンス差は小さくなるため,全体として特性を改善することができるのです.

テーパー状インピーダンス変換器 -Klopfenstein Taper-

先述したようにインピーダンス変換器を多段化し,ステップ間の特性インピーダンス差(つまり線路幅の段差)を減らすことで広帯域で反射の少ない特性を実現することができます. では,この段数をさらに増やしていくと……最終的には下図のように特性インピーダンス$Z_1$と$Z_2$の2つの線路を滑らかに繋ぐテーパー状の線路になります. このテーパー状のインピーダンス変換器の設計理論は1956年にR.W. Klopfensteinによって報告[1]され,現在ではKlopfenstein Taperとして知られています(Klopfenstein自身はこのテーパーをDolph-Tchebycheff taperと呼んでいます).

このテーパーの特性インピーダンスは次式で与えられます(各式の導出過程など理論的背景については原著を読んでいただければと思います……). ただしオリジナルの文献[1]ので示された式は誤っており,1973年にR.W. BEATTYらによって修正[2]されています(赤字で示した$\color{red}{-1}$). \[\ln(Z_0) = \frac{1}{2}\ln(Z_1Z_2)+\frac{\rho_0}{\cosh(A)}\left\{A^2\phi(2x/l,A)+U\left(x-\frac{l}{2}\right)+U\left(x+\frac{l}{2}\right)\color{red}{-1}\right\}\] まず,この式中の$\rho_0$は冒頭で示した特性インピーダンスが$Z_1$と$Z_2$の線路を直接接続した場合の反射係数となります. ただし,ここではテーパーの端部で特性インピーダンスが連続となるよう,$\rho^2 \ll 1$として以下の近似を用います \[\rho_0 = \frac{Z_2-Z_1}{Z_2+Z_1} \simeq \frac{1}{2}\ln(Z_2/Z_1)\] 次に式中にたびたび登場する定数$A$ですが,この定数とテーパー部の各点での反射$\rho\exp(\mathrm{j}\beta l) $の間には次の関係が成り立ちます. \[\rho\exp(\mathrm{j}\beta l) = \rho_0 \frac{\cos(\sqrt{(\beta l)^2 - A^2})}{\cosh(A)}\] 従って,定数$A$はKlopfensteinテーパーでの反射係数の最大値$\rho$から$A = \cosh^{-1}(\rho_0/\rho)$と求めることができます. 原著ではテーパーの長さ$l$についてあまり触れられていませんが,上式の$\cos$の中が実数($\sqrt{\ }$の中が正)となる条件から$\beta l \geq A$としなけらばならないことがわかります. また,関数$\phi$は以下のように定義されます.ただし$I_1$は1次の第1種変形ベッセル関数です.このページのプログラムでは$\mathrm{d}y = 1\times 10^{-3}$として長方形近似で雑に数値積分して$\phi$の値を求めています. \[\phi(z,A) = \int_0^z \frac{I_1\left(A\sqrt{1-y^2}\right)}{A\sqrt{1-y^2}}\mathrm{d}y\] 念のため,$U(x)$は単位ステップ関数です.

計算する奴 -Klopfenstein Taper Impedance Table Calculator-

ここでは与えられた2つの特性インピーダンス$Z_1,\ Z_2$と,反射係数の最大値$\rho_\mathrm{max}$からKlopfensteinテーパーのインピーダンス変化を求めます. 理想的にはテーパーのインピーダンスは連続値ですが,無限に細かい区間を計算し続けるわけにもいかないのでここでは有限ステップ($1/N$)ごとに計算した離散値のテーブルを出力します. ※だいたい正しい値が出ているとは思いますが,ソースコードなどを見て間違っている点などに気付いた方はトップページに示している連絡先までご一方いただけると幸いです.

Enter the line characteristic impedance$Z_1$ and $Z_2$, the maximum refrection coefficient $\rho_\mathrm{max}$, the number of calculation points $N$ and push the "calculate!."

$Z_1$ [Ω]:
$Z_2$ [Ω]:$\rho_0$ [-]:
$\rho_\mathrm{max}$ [-]:$A$ [-]:
$N$ [-]:
$x/l$ [-]Line $Z_0$ [Ω]↓

参考文献

[1] R. W. Klopfenstein, "A Transmission Line Taper of Improved Design," Proceedings of the IRE, vol. 44, no. 1, pp. 31-35, Jan. 1956, doi: 10.1109/JRPROC.1956.274847.

[2] D. Kajfez and J. O. Prewitt, "Correction to "A Transmission Line Taper of Improved Design" (Letters)," IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques, vol. 21, no. 5, pp. 364-364, May 1973, doi: 10.1109/TMTT.1973.1128003.

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