「牛」型BPF

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1 概要

このサイトのfaviconにもなっている「牛」の形のパターンを利用した分布定数フィルタを作りました.

2 「牛」型共振器(これは失敗)

適当な形のパターンは適当な周波数の共振器として動作します. そこでとりあえず以下のような「牛」型のパターンと励振線を作成しました. 基板のサイズが小さすぎても大きすぎても作り辛いため今回は50 mm四方に収まるように設計しています. また,使用する基板は家に転がっていた1.6 mmのFR-4で銅箔厚35 µmの一般的な両面基板としました.

cowres.png

できた回路の周波数特性を電磁界シミュレーション1によって求めました. この回路は以下のように1.82 GHz及び2.76 GHzに共振点を持つことがわかります. 本当はもう少し励振線と共振器の間隔を狭めたい所なのですが0.5 mmよりも細いカッターを持っておらず加工できないのでこれで良しとします.

graph1.png

そして実際に作成したものがこちらとなります. 作成し実際に特性を測定しようとした所,手持ちの測定器2では1.5 GHzまでしか見れないことに気付きました… またこの構成では励振線も文字の一部に見えてしまい「牛」では無く「朱」では無いかという指摘の声が上がりました.

cowboard.jpeg

3 「牛」の下型ショートスタブ及び「牛」の上型オープンスタブによるBPF

前回の失敗を踏まえてきちんと特性を確認できるように中心周波数を1 GHzとしたBPFを設計することとします. また,基板が勿体無いので前回の「牛」を切り出した残りの幅40 mm無いくらいのスペースに収まるように設計します.

しかしながら前回のデザインから小型化を行いつつ共振周波数を下げるのは困難です. そこで今回は3 GHz付近を中心とした非常に広帯域なBPFに2 GHz付近を中心としたBEFを組み合わせることで目標としていた1 GHz中心のBPF特性を実現することとしました.

3.1 「牛」の下型ショートスタブによる広帯域BPF

牛の横に長い辺を伝送線路とし下側の縦棒をショートスタブ,上側の構造をオープンスタブとすることにします. 今回使用した基板の場合,線路長13 mmとするとおおよそ3 GHzにおいて電気長π/2となり,線路幅を2 mmとすると特性インピーダンスは(だいたい)50 Ωとなります. これを踏まえて「牛」の下側を設計するとこのようになります.

bt.png

回路シミュレータ3で周波数特性を検証し,狙い通りに動作していることが確認できました.

bt_f.png

3.2 「牛」の上型オープンスタブによるBEF

牛の上側は複雑な形をしています.今回は以下のようにモデル化し検証しました.

up.png

こちらも狙い通りの特性が得られています.

up_f.png

3.3 組み合わせたフィルタ

先述したショートスタブとオープンスタブをくっつけると以下のようになります. とてもブロードだった通過域がぶったぎられて1 GHz中心の通過域が見えます.

com.png

com_f.png

これらの設計を元に次のようなパターンを設計しました.

cow3d.png

で,実際に作りました. 30 mm四方とかなりコンパクトにまとまっています.

cowbpf.jpeg

作成したフィルタの周波数特性の測定およびシミュレーション結果は以下のようになりました. 狙い通り1 GHzを中心としたBPF特性が得られ,電磁界シミュレーションと実測値もよく一致しています.

cowbpf.png

Footnotes:

1

今回,設計したパターンの電磁界シミュレーションにはSonnet Lite 18.51を使用しています. バージョン18.51では従来のバージョン15系から大きくUIが変更され今風になった上に解析規模の制限が2倍,DXFの入出力など従来のSonnet Lite Plus相当の機能が利用できるようになりました. まだ古いバージョンのSonnet Liteを利用している人は更新することをお勧めします.

2

測定にはNanoVNA-Hを使用しています.

3

回路シミュレーションにはQuite Universal Circuit Simulator(QUCS) ver 0.0.19を使用しています. オープンソースの回路シミュレータですが伝送線路やSパラメータなど高周波回路向けの機能も豊富でお勧めです.

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